この記事のポイント
- 駐在員事務所は「本社の代理窓口」であり、収益活動は原則として禁止されている
- 支店は一定の収益活動が可能だが、外国人事業法(FBA)上の規制がある業種ではFBLの取得が必要
- 両形態とも「本社が法的責任を負う」点が現地法人との最大の違い
はじめに
第1回では、タイへの主な5つの進出形態を概観しました。第2回では、そのなかでも設立が比較的容易な駐在員事務所と支店の2形態について、法的な位置づけ・業務範囲・設立手続をより詳しく解説します。
駐在員事務所(Representative Office)
法的位置づけ
駐在員事務所は、日本の本社が設置するタイ国内の出先拠点です。タイ国内に独立した法人格を持ちません。法的には、日本法人の「一部」として扱われます。
許可される業務の範囲
タイ歳入局(Revenue Department)および商務省(Department of Business Development)が定める規定によれば、駐在員事務所に認められる業務は以下に限られています。
| 許可される業務 | 具体例 |
|---|---|
| 市場調査・情報収集 | タイ市場の動向調査、競合情報の収集 |
| 本社との連絡調整 | 顧客・サプライヤーとの連絡仲介 |
| 品質管理のサポート | 製品・部材の品質確認 |
| 技術サービスの提供 | 本社製品の技術説明、デモンストレーション |
| 購買促進活動 | タイ企業への製品紹介(ただし受注・契約は本社) |
できないこと: 受注・契約の締結、代金の受領、営業活動(自社で収益を得る行為全般)
税務上の扱い
駐在員事務所が許可された範囲の業務のみを行う場合、タイ国内での課税所得は原則として生じません。ただし、実質的に収益活動を行っていると税務当局が判断した場合は、恒久的施設(PE)として課税対象になる可能性があります。
設立手続の概要
駐在員事務所の設立は、タイ商務省(Department of Business Development)への申請が中心となります。
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必要書類の準備
- 申請書(外国人事業法所定の様式)
- 日本本社の登記事項証明書(アポスティーユ付き、タイ語翻訳)
- 取締役決議書(タイへの事務所設置を決議したもの)
- 事務所の賃貸借契約書
- 代表者のパスポートコピー
-
申請・審査
- 商務省(DBD)に申請書・添付書類を提出
- 審査には通常2〜3ヶ月を要する場合があります
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許可証の取得・登録
- 外国人事業証明書(Foreign Business Certificate)の取得
- 労働許可(ワークパーミット)と非移民ビザ(Bビザ)の取得(就労者各自)
費用の目安
| 項目 | 概算 |
|---|---|
| 政府手数料 | 数千〜数万バーツ程度 |
| 法律・会計事務所の報酬 | 業者・作業範囲により異なる |
| 登録資本要件 | 最低300万バーツ(本社からの送金が必要) |
駐在員事務所を選ぶ場面
- タイ市場への参入前に市場調査・パートナー探しを目的とする場合
- 本格的な事業展開は将来の検討として、まず拠点確保を優先する場合
- 日本本社からの管理・品質チェックが主な業務の場合
支店(Branch Office)
法的位置づけ
支店も日本本社の一部であり、タイ国内に独立した法人格を持ちません。しかし駐在員事務所と異なり、一定の収益活動が可能です。ただし、業種によっては外国人事業法(FBA)上の規制を受けます。
業務範囲と外国人事業法の関係
支店が行う事業がFBAの規制リスト(附表2・3)に該当する場合、外国人事業許可(FBL) の取得が必要になります。
- FBAの規制業種でFBLを取得しないまま収益活動を行った場合は、刑事罰の対象となり得ます
- BOI奨励を受けた場合、FBAの制限を免除されることがあります(支店形態でのBOI奨励は一部業種に限られます)
- FBAの附表1(完全禁止業種)に当たる業種は、外国法人の支店でも参入できません
本社の無限責任
支店の契約上の義務・損害賠償は、すべて日本の本社が直接負います。これは支店設置のリスク面における最大の特徴です。
設立手続の概要
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FBA審査・申請(必要な場合)
- 対象業種の場合、商務省または外国人事業委員会(FBC)に外国人事業許可を申請
- 審査期間:数ヶ月〜それ以上の場合もあります
-
支店登記
- 商務省(DBD)への登記申請
- 本社の登記事項証明書、取締役決議書、委任状などが必要
-
登録資本の送金
- 最低300万バーツの資本送金(分割払い可)
-
税務登録・労働許可
- 歳入局への法人税登録
- 就労する外国人のワークパーミット取得
支店を選ぶ場面
- 特定のプロジェクト契約(建設・エンジニアリング等)を単発で受注する場合
- 日本本社が直接契約当事者となることが求められる場合
- 将来の現地法人化を視野に入れつつ、まず支店で事業を開始する場合
駐在員事務所・支店の共通注意点
実質的な営業活動に伴うリスク
駐在員事務所・支店いずれも、許可された範囲を超えた活動を行うと税務・法務上のリスクが生じます。特に「名目上は駐在員事務所だが、実態としてタイ国内で顧客から直接受注している」というケースは、タイ税務当局に恒久的施設(PE)と認定される可能性があります。
現地法人への移行
事業が拡大し本格的な収益活動を行う段階になると、現地法人(タイ有限会社)への移行を検討する企業が多くあります。移行には新たな法人設立手続が必要となるため、移行コストを念頭に置いた長期的な設計が重要です。
まとめ
駐在員事務所は「市場調査・連絡調整」に特化した形態、支店は「一定の収益活動が可能だが本社リスクを負う」形態です。どちらも独立した法人格を持たない点が、現地法人との決定的な違いです。
次回予告:第3回「タイ有限会社(現地法人)の仕組みと外国人事業法(FBA)の実務ポイント」
タイ進出の形態選択についてご不明な点があれば、お気軽にお問い合わせください。タイ法に関する具体的な対応は、提携先JTJB International Lawyersのタイ人弁護士と連携して対応いたします。
本記事はタイの法制度に関する一般的な情報提供を目的としており、タイ法に基づく法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、タイの弁護士資格を有する専門家にご相談ください。当事務所では提携先JTJBのタイ人弁護士と連携して対応いたします。