この記事のポイント
- BOI奨励を受けると、外国人事業法(FBA)の制限を受けずに外資100%での事業運営が可能になるケースがある
- 税制上の優遇(法人税の免除・減免、輸入関税の免除等)と非税優遇(土地所有権、外国人就労者数の上乗せ等)がある
- 奨励対象は「大企業向け」ではなく、中小規模の製造業・サービス業でも取得できる業種・規模の案件が多くある
はじめに
タイへの進出を検討する際、「BOIは規模の大きい製造業の話」というイメージを持たれている方も少なくありません。しかし実際には、BOI(タイ投資委員会 / Board of Investment)の奨励制度は幅広い業種・規模の企業に開かれており、外国人事業法(FBA)の規制を回避する合法的な手段としても注目されています。第4回では、BOI奨励制度の仕組みと実務上のポイントを整理します。
BOI(タイ投資委員会)とは
タイ投資委員会(BOI)は、タイ首相府の直轄機関として設置された政府機関であり、タイ国内への投資促進を担っています。根拠法は**投資促進法(Investment Promotion Act B.E. 2520 / พระราชบัญญัติส่งเสริมการลงทุน พ.ศ. 2520)**です。
BOI奨励を受けた企業(BOI奨励企業)は、通常の外資規制から一定の保護・免除を受けるとともに、各種の優遇措置が付与されます。
BOI奨励の主なメリット
1. 外国人事業法(FBA)の適用免除
BOI奨励業種・規模の要件を満たした企業は、外国人事業法附表2・3に該当する業種であっても、FBLなしで外資100%での事業運営が認められる場合があります。これはタイ進出において最大のメリットの一つと考えられています。
2. 税制優遇
| 優遇の種類 | 内容 |
|---|---|
| 法人税の免除 | 対象所得について3〜8年間の法人税(20%)免除(活動カテゴリによる) |
| 法人税の減免 | 免除期間終了後、さらに50%減額の期間が設けられることがある |
| 輸入関税の免除 | 生産設備・原材料の輸入関税免除 |
| 研究開発費の控除 | 一定の控除が認められる場合がある |
3. 非税優遇
| 優遇の種類 | 内容 |
|---|---|
| 土地所有 | 外国人は原則として土地を所有できないが、BOI奨励企業には一定条件の下で土地保有が認められる |
| 外国人就労者 | ワークパーミット・ビザ取得の優遇、外国人技術者・専門家の就労が容易になる |
| 外貨送金 | 配当・利益・元本の海外送金が保護される |
BOI奨励の対象業種カテゴリ
BOIは奨励活動をカテゴリA(A1・A2)とカテゴリB(B1・B2)に分類しています。カテゴリが上位(A1)であるほど税制優遇が手厚くなります。
カテゴリA(税制優遇あり)
| カテゴリ | 特徴 | 対象例 |
|---|---|---|
| A1 | 最上位:8年間の法人税免除 | 生物工学、電子設計、先端材料、医療機器製造など |
| A2 | 8年間の法人税免除 | ハイテク農業、自動化機械製造など |
| A3 | 5年間の法人税免除 | 電子部品製造、精密部品、化学品など |
| A4 | 3年間の法人税免除 | 軽工業製品、食品加工、プラスチック製品など |
カテゴリB(非税優遇のみ)
| カテゴリ | 特徴 | 対象例 |
|---|---|---|
| B1 | 法人税免除なし。FBA免除・土地保有等は適用 | 一部のサービス業、貿易・物流 |
| B2 | 法人税免除なし。一部の非税優遇のみ | 一般的な製造業の一部 |
中小企業もBOI奨励を取得できるか
BOI奨励は大規模な製造業だけのものではありません。以下のような業種・規模でも取得実績があります。
- 食品加工・農産物加工:輸出比率が高い場合に奨励対象となりやすい
- ソフトウェア・デジタルサービス:デジタル産業はBOI奨励の重点分野
- 医療機器・ヘルスケア:A1・A2カテゴリの対象となるものが多い
- 精密部品・金型製造:タイの製造業集積に貢献する活動として奨励されやすい
- 物流・倉庫:条件次第で対象になるケースがあります
最低投資額の要件は業種・カテゴリにより異なりますが、一般的な機械設備を含む最低投資額の目安として100万バーツ以上(土地・運転資本を除く)が設定されていることが多く見られます。
BOI申請の流れ
BOI奨励の申請は以下のようなプロセスをたどります。
flowchart TD
A[対象業種・カテゴリの確認] --> B[事業計画書・申請書類の準備]
B --> C[BOIへの申請書提出]
C --> D[BOIによる審査・面接]
D --> E{承認?}
E -- はい --> F[奨励状(BOI Certificate)の受領]
E -- いいえ/条件付き --> G[条件交渉・補正・再申請]
F --> H[奨励条件に従った事業開始]
H --> I[定期的なBOI報告・条件遵守]
申請から奨励状受領までの期間
申請の審査には通常4〜9ヶ月以上かかる場合があります。業種や事業規模、書類の完成度、BOI側の優先事項によって大きく異なります。
主な申請書類
- 申請書(BOI所定の様式)
- 事業計画書(生産計画・雇用計画・投資計画を含む)
- 財務諸表(または事業予測)
- 会社の登記書類(または設立予定の場合はその旨を明示)
- 環境影響評価報告書(業種・規模による)
BOI奨励後の継続義務
BOI奨励企業には、奨励状に記載された条件に従い、以下のような継続的な義務があります。
| 義務の種類 | 内容 |
|---|---|
| 年次報告 | 生産実績・雇用状況等をBOIに毎年報告 |
| 機械設備の使用 | 承認された機械設備を承認用途で使用すること |
| タイ人雇用比率 | 一定割合のタイ人従業員の雇用維持 |
| 環境基準の遵守 | 承認時の環境条件を維持すること |
これらの条件に違反した場合、BOI奨励の取消しや優遇措置の返還を求められることがあります。
まとめ
BOI奨励制度は、外国人事業法(FBA)の制限を合法的に回避しつつ、外資100%での事業展開と税制優遇を両立できる重要な制度です。ただし、審査プロセスに時間がかかること、奨励後も継続的な義務を負うことは、進出計画の段階から念頭に置いておきたいポイントです。
次回予告(最終回):第5回「合弁会社・株主間契約の設計と、タイ進出の全体的な進め方」
BOI申請やタイ進出の計画全般についてのご質問は、お気軽にお問い合わせください。タイ法に関する具体的な対応は、提携先JTJB International Lawyersのタイ人弁護士と連携して対応いたします。
本記事はタイの法制度に関する一般的な情報提供を目的としており、タイ法に基づく法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、タイの弁護士資格を有する専門家にご相談ください。当事務所では提携先JTJBのタイ人弁護士と連携して対応いたします。