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news 2026.01.12 約10分

タイ反贈賄法の強化動向|内部告発者保護と日系企業のコンプライアンス対応

タイでは腐敗防止・反贈賄に関する法制度の強化が進んでいます。内部告発者保護の拡充、民間部門への適用拡大、NACC(国家腐敗防止委員会)の調査権限強化を踏まえ、日系企業が今すぐ整備すべきコンプライアンス体制を解説します。

この記事のポイント

  • タイの腐敗防止法制は強化傾向にあり、民間企業(外資系含む)への適用が拡大している
  • 内部告発者(Whistleblower)保護制度の整備が進み、社内不正の外部通報リスクが高まっている
  • 日系企業は「タイ現地の商慣行に合わせている」では通用しない時代に入りつつある

はじめに

「タイではある程度の付け届けは仕方ない」「現地パートナーに任せているので問題ない」——こうした認識は、タイ進出の日系企業の中に今もみられます。しかし、タイの腐敗防止・反贈賄に関する法制度は近年急速に強化されており、この認識のまま放置しておくことは、刑事リスク・行政処分リスク・レピュテーションリスクのいずれの面からも危険な状況になりつつあります。

本記事では、タイの反贈賄・腐敗防止法制の現状と強化の方向性、および日系企業が今すぐ整備すべきコンプライアンス体制について解説します。


1. タイの腐敗防止法制の現状

主要な法律

タイには複数の腐敗防止・反贈賄に関する法律が存在します。

**国家腐敗防止・撲滅法(NACC法)**は、NACC(国家腐敗防止委員会 / National Anti-Corruption Commission)に対し、公務員および関連する民間人の腐敗行為を調査・訴追する権限を与えています。

**刑法典(Penal Code)**は、公務員への贈賄・公務員による収賄を犯罪として規定しています。

**有機法(Organic Act on Counter Corruption B.E. 2561)**は、2018年に大幅改正され、腐敗防止の枠組みを強化しました。

タイの腐敗認識指数(CPI)

国際透明性機構(Transparency International)の腐敗認識指数(CPI)において、タイは2024年に100点満点中36点(180か国中108位)と、依然として腐敗リスクが高い国として評価されています。日本(73点)と比べても大きな差があります。このギャップは、日系企業がタイ現地の慣行に引きずられるリスクが常に存在することを示しています。


2. 法制度強化の方向性

① 民間部門への適用拡大

従来のタイの腐敗防止法は主に公務員の汚職を対象としていましたが、近年の改正では民間企業間の贈賄(商業賄賂)にも適用範囲が拡大されつつあります。日本の不正競争防止法に相当する考え方——取引先・代理店・業務委託先等への不正な利益供与を禁止する規制——がタイでも整備されつつあります。

外資系企業(日系企業を含む)は、日本の親会社が適用を受ける米国FCPA(海外腐敗行為防止法)や英国贈賄法(UKBA)の域外適用リスクもある中で、タイ国内法の強化という二重のリスク管理が求められています。

② 内部告発者(Whistleblower)保護制度の拡充

タイでは2024年以降、内部告発者保護に関する法整備が進んでいます。行政機関・国営企業における不正の通報者保護は従来から規定されていましたが、民間企業の従業員が会社の不正を外部機関(NACC・当局)に通報した場合の保護についても、制度整備の議論が進んでいます。

日本企業の観点から重要なのは、タイ人従業員が社内不正をNACCや当局に通報する可能性が、制度的に担保されつつあるという点です。「社内で処理して終わり」という運用が機能しにくくなる時代に備える必要があります。

③ NACC・DSI(特別捜査局)の調査権限強化

NACC(国家腐敗防止委員会)およびDSI(特別捜査局 / Department of Special Investigation)は、腐敗・贈賄事案に関する調査権限を強化しています。特に外資系企業が絡む案件での調査が増加しており、日系企業の現地法人も調査対象となりうることを認識しておく必要があります。


3. 日系企業に多いリスクパターン

① 接待・贈答の「グレーゾーン」

タイでは取引先への贈答・接待が商慣行として根付いている面があります。しかし、公務員(税関・入国管理・行政機関等)への接待・贈答は、金額・形式を問わず贈賄に該当するリスクがあります。「少額だから問題ない」「現地でよくあること」という判断は危険です。

② 代理店・ブローカーを介した迂回

「ファシリテーションフィー(促進費用)」の名目で代理店やブローカーに多額の手数料を支払い、その資金が公務員への贈賄に使われるパターンは、FCPAや英国贈賄法の典型的な事案類型です。タイ法の強化に伴い、同様のリスクがタイ国内でも高まっています。

③ 合弁パートナーの行為

合弁会社(JV)のタイ側パートナーが行った贈賄について、「自分たちは知らなかった」では通じない場合があります。日本本社のグループ・コンプライアンス方針をJVにも適用し、定期的なデュー・ディリジェンスを行うことが重要です。


4. 日系企業が今すぐ整備すべきコンプライアンス体制

① 贈賄防止ポリシーの策定・周知

タイ法人の就業規則・行動規範に、贈賄・腐敗防止に関する明確なポリシーを規定し、全従業員に周知することが求められます。「日本本社のポリシーがあるから」では不十分であり、タイ語での明示・署名取得が実務上有効です。

② 接待・贈答の承認プロセスの整備

公務員・取引先への接待・贈答について、金額の上限・事前承認プロセス・記録保管の手続きを明確に定めておくことが考えられます。「判断に迷うときは上長に相談」という文化を醸成することも重要です。

③ 内部通報窓口の設置

タイ人従業員が社内の問題を安心して報告できる内部通報窓口を整備することが考えられます。外部への通報前に社内で問題を把握・対処できる仕組みを持つことは、企業防衛の観点からも有効です。

④ 代理店・ブローカーのデュー・ディリジェンス

代理店・ブローカー・コンサルタント等のサードパーティに対して、反贈賄デュー・ディリジェンスを実施し、契約書に贈賄防止条項を盛り込むことが考えられます。


5. 今後の見通し

タイ政府はOECD加盟プロセスの一環として、腐敗防止・企業統治(コーポレートガバナンス)の水準向上を国際的に約束しています。内部告発者保護法制の整備、民間贈賄への適用拡大、NACC権限の強化という三つの方向性は、今後も継続・強化されると考えられます。


まとめ — 今やるべき3つのこと

① タイ法人の贈賄防止ポリシーをタイ語で明文化し、全従業員に周知する

日本本社のグループポリシーをタイ語に落とし込み、署名取得まで行うことが実務上の最低ラインです。

② 接待・贈答の承認プロセスと記録管理を整備する

「承認なしに公務員に贈答しない」というルールと記録の仕組みを今すぐ整えましょう。

③ 代理店・ブローカーとの契約に贈賄防止条項を盛り込む

サードパーティ経由の贈賄リスクを契約上でコントロールすることが、FCPA・英国贈賄法・タイ国内法の三重リスクへの対応として有効です。

これらのコンプライアンス体制の整備には、日本法とタイ法の両面に精通した専門家のサポートが有効です。当事務所では、提携先JTJB International Lawyersのタイ人弁護士と連携して対応いたします。


タイでのコンプライアンス体制整備や、贈賄防止ポリシーの策定・見直しについて詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。

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本記事はタイの法制度に関する一般的な情報提供を目的としており、タイ法に基づく法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、タイの弁護士資格を有する専門家にご相談ください。当事務所では提携先JTJBのタイ人弁護士と連携して対応いたします。

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